恋した責任、取ってください。
お客さまは赤字で“GUEST”と印字されたものを下げて頂く決まりで、だからよっぽど顔パスの利く上の立場の人間でない限りは、社内外の人はすべからく何かしら首から下げるのだ。
目の前のこの人は……残念、お客さまのようだ。
何の能力もない私には“GUEST”の赤字をいくら見つめても彼の名前なんて浮き出てくるはずもなく、早々に出鼻をくじかれた気分になる。
ああ、私に名前を聞く勇気があったら……!
こういうところでも積極性に欠けるというか、深読みしすぎて名前を知らない私がいけないんだと思い込んでしまうところがある私は、途端に申し訳なさのあまり俯いてしまう。
「あれ、でも、バスケの教本を持ってるってことはブルスタ関係の人だよね? 俺、岬大地。センターやってるんだ、これからよろしくね」
「はははいっ!よろしくお願いしゃす!」
「噛んでるの? 方言なの?」
「すみません、思いっきり噛みました……」
しかし天は私を見放さなかった。
24年間探し求めてきたマイ・スイート・プリンスもとい岬大地さんは、またしても激しく動揺している私に優しくツッコミを入れ、次いで。
「天沢夏月って可愛らしい名前だね。ちっちゃくてメガネの女の子なんて、マジで俺、ドストライクだわ。うんうん、可愛い可愛い」
と。
そう言って、にっこり笑った。
結婚してください、幸せにします。
心の中ではすでにプロポーズしている。
けれど、間違ってもいきなりそれはないことくらい分かっているし、そもそも彼女の有無や既婚者かどうかを確認するほうが先決だ。
ずっと探し求めてきた王子様だけど、一目惚れしちゃったけど、岬さんにもお相手というものがあるわけで、そのたった一つの席がすでに埋まっていたのなら、私は諦めるしかない。
初恋をさせてもらった素敵な殿方として、私の中で美化し奉り恭しく扱わせて頂くのみだ。