理想の恋人って!?
 ちょっとって。映画だって夕陽だって一緒に見に行ったのに。

 晃一の言葉に不満を覚えながらも、誠一さんの様子が心配になった。

「誠一さんは今日もお仕事だったんですか?」

 誠一さんが頬を緩めた。笑みを作ったようだけど、疲れ切った顔がゆがんだだけで、見ていて痛々しい。

「そうなんだ。リストラの影響で、人手が足りなくて休日出勤。手当は出ないんだけど、昨日中に終わらせられなかったから」
「じゃあ、お疲れですよね?」
「そうでもないよ。コーヒーくらい飲んでく?」

 誠一さんが親指で肩越しに部屋の中を示した。

「あ、いえ、あの、もしご迷惑でなかったら……車をお借りしたお礼に、一緒にお食事とかどうかなーって思って」
「ありがたいけど、もう外に出る気力がなくて。ピザでも取って一緒に食べようか」
「あ、それもいいですね。じゃあ、そうしましょう!」

 私がパチンと両手を合わせたとき、晃一がぼそりと言う。

「じゃ、俺、帰るわ」

 立ち去りかけたそのスーツの背中を私はむんずとつかんだ。

「何言ってるのよ! 晃一も一緒に食べるの!」
「なんで?」
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