汝は人狼なりや?(※修正中。順を追って公開していきます)
 僕、風子、洋子さん、臣さん……4人家族の僕たち。血の繋がりは当然、ある。そこらにある一般的な家庭となんの違いもないのに、いつの日からか……僕だけが〝洋子さん〟や〝臣さん〟と呼ぶようになっていた。

 最初は驚いていた洋子さんや臣さんだったけれど、いつまで経っても僕がその呼び方をやめないせいか、諦めなのか慣れなのか……拒絶だけはしなくなっていた。

 もう、クセとして身に付いてしまったかな。僕自身、どうしてそう呼ぶようになったのか、始まりを忘れてしまった。今さら〝お母さん〟や〝お父さん〟と呼ぶのも抵抗があったりするしね……。

 それにしても……。

 目の前にいる臣さんは、朝の出勤前と同じスーツに愛用の茶色いカバン。仕事帰りであることに違いは無いはずなのだけれど、どこか様子がおかしい。


「……臣さん?」


 嫌な予感がする。僕の呼び掛けになんの反応も示さない臣さんに対して、今度は恐る恐る、再び呼び掛けてみる。

 目の前にいるのは紛れもなく臣さんなのに、片手で頭を抱え込むようにして項垂れて、挨拶も無しに無言のままでいるその姿は、まるで魂が抜けた抜け殻のよう。

 いつもより早い仕事からの帰宅のことといい、明らかに様子が違うことといい、直感的に何かがあったんだと察した。


「……ふうこ」


 それはとても小さく、か細い声。ようやく言葉を発したと思ったら、臣さんはその名前を口にした。

 ふうこ……風子。犬飼(いぬかい) 風子。僕のたった1人の大切な妹で、近所からも仲良い兄妹だと言われている。まさに今さっきまで、風子の部活動からの帰宅を待っていたこともあって、その名前が臣さんの口から飛び出してきたことに思わず心臓がドキリとする。

 小柄なわりに足の速い風子は、その長所を活かすためにも陸上部に入部している。もうそろそろ帰ってきてもいい時間のはずなんだけれど……。
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