汝は人狼なりや?(※修正中。順を追って公開していきます)
 ──ザシュッ。

 由良城さんの言葉は、鈍い音とともに発せられたその言葉っきり、続くことはなかった。代わりに、ヒューヒューとした空気が漏れる音だけが聞こえる。

 両目で目の前で起こったことを焼き付けても、脳が理解するのにはしばらく時間を用いるよう。

 見たこともないような鋭利な刃物で裂かれた由良城さんの首元から、空気とともに真っ赤な鮮血が噴水のように噴き出して、とまらない。

 それをただ、唖然として見ている野々宮くん、無言になったけれど尚も冷たい目を向けている夜桜さん、驚きのあまりに目を見開く一同──いや、ただ2人、西園寺さんと水無さんを除いた一同。

 鋭利な刃物──それは、西園寺さんのメイドとして常に側にいる、水無さんの手に握られているモノ。

 水無さんが、由良城さんの首元に向けて、目にもとまらぬ速さで、その刃物を振るった。……その事実が、じわじわと僕の脳を蝕んでいく。

 何がどうなって、いきなり水無さんが刃物を振るったのかは分からない。けれど、見たことのないその刃物は、最初からここにあった物じゃないことは分かる。美しい柄の装飾品から察するに、仕えている西園寺家のもの。

 刃先から、由良城さんの身体が出た赤い液体がぽたぽたと床を染めていく。すっと構えを解いた水無さんは、慣れた手付きで自分が着用しているエプロンで刃物を包み、付着した赤い液体を拭き取った。


「……さ……とり……?」


 何が起こったのか理解出来ない野々宮くんの小さく掠れた声とともに、由良城さんの身体はその場にぐらりと倒れていって──やがて、彼はしっかりとその身体を受け止めた。

 ずるずると倒れていく由良城さんの身体に合わせ、野々宮くん自身もその場に座り込む。最終的に、彼女の頭を自分の膝の上に寝かせるような体勢になった。
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