一方通行恋愛~この恋、全員片想い~
序章:恋に落ちる
【序章:恋に落ちる
 綾子の場合】


 お母さんが死んだ。

 もう何年も前のこと。

 今も夢に見る。

 先生が心臓マッサージしている姿も、それに合わせて揺れ動くお母さんも、無機質に響く機械の音も。

 ご臨終ですと言う先生の声も、それと同時に泣き崩れるお父さんも。


 全部、夢に見る。


 呆然と病室前で立ちすくんでいた私は、膝が震えて座り込む。

 息を吸うのを忘れて、息苦しくて、でも息は吸えなくて。



『大丈夫、ほら息をゆっくり吐いて』



 私と同じ年頃の見知らぬ男の子が、私の背中をさすってくる。

 真っ赤に目を腫らして、かすれたその声で大丈夫を繰り返す。



 いつもその夢を見ると、名も知らぬ男の子のことを思い出す。



 名も知らなかった男の子がクラスメイトになったときには、すでに恋に落ちていた。




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