Focus
初夏の日差しの中で食べるには濃厚なスイーツだった。どちらかといえば、秋や冬に恋しくなる味だ。
「いいのよ。迷わないことにしたの。たくさんの人に対して作ることもいいけど、ひとつのケーキをひとりのために作るのも大事なことなのよ」
ケーキを考えていた時の悩みが感じられない、ふっ切れた様子に安心する。
ミオはこうでないと。
ふいにざわめきが起こって目をやる。人が動いていく先に、ちらりと沙那さんの髪が見える。
入り乱れる人で、何かが起こっているのがわかった。ミオを見ると眉間にしわを寄せて不安そうに見上げてきた。