【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
修学旅行を目前に、他のクラスの実行委員会のメンバーは、そわそわとしているよう。


私と楠本燭は例外で、あまりに落ち着いているから逆に担当の先生が困っている。


京都への二泊三日の修学旅行。こんなにも長くクラスメイトと過ごすことはそうそうあることじゃないから、私達二人の方が可笑しいのかもしれない。


楠本燭はそういった性格なのだ。私はそうでなく、正直言うと修学旅行に行きたくない気持ちが強いのだ。


例えば、修学旅行の間ルイは充電をどうするのだろうという不安があったりする。


ラボのカプセルも無ければ、背中からコンセントを出す事すら出来ないだろうに。


それだけでは無い。私自身、あの場所にはあまり行きたくないのだ。


あそこには、あまりにも思い出があり過ぎる。捨てた物を拾い上げてしまうのではないかと、怖くなってしまう。


「片岡さん?大丈夫?顔色悪いよ」


「大丈夫です、平気、ですから……」


気付かれてしまう程私は顔色を悪くしてしまったのだろうか。


平然を装いたいのに、装う事が出来ない。


修学旅行先は、私の温かな思い出と、捨て失せた感情と、そして、その全ての事柄の象徴さえも、置いてきた場所なのだから。
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