【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
「先生、片岡さんが顔色が優れないので、一旦保健室に行ってきても良いですか?」


私の気分が良くないのに気付いてからの楠本燭の対応は、冷静且つ迅速なもので。


多分、他のクラスの人にも大人しい人だと思われている楠本燭が、恥ずかしげもなく堂々とその低音の声を響かせて立ち上がったのだ。皆、あからさまに視線を送ってくる。


それでも、楠本燭はしゃんと背筋を伸ばしていて、躊躇う事なく私の二の腕を掴むと立ち上がらせ、一礼して打ち合わせの教室の外へ向かって歩く。


「そんなに堂々と出来る人なのなら、里佳子へ対しても堂々としてれば良いのに……」


「出来たらそうしたいさ。でも出来ないよ。だって、そういうのが人ってもんだろう?」


人間だから感情があって、それゆえ出来ない事がある。


じゃあ、それを捨てた私はどんな存在なんだろう。


おそらくは、楠本燭の位置付けで当てはめれば、知能のある物でしかないのだろう。
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