甘いペットは男と化す
 
しっかりと断りの言葉を伝えたのに、矢代さんの瞳が揺らぐことはなく、ただじっとあたしを見つめている。

逸らしたら負け。
そんな気もした。


「それは……やっぱり村雨くんが原因?」


覚悟はしていたけど、ケイとの関係の追及。

どこまで話したらいいのかも分からなかったけど、今は正直に答えようと思った。


「……はい…。
 今のあたしの心の大半を占めているのは……彼です」

「付き合ってるの?」

「いえ。付き合ってないです。向こうはあたしのことなんて、なんとも思ってないですから」

「なら……」


本当は、そんなケイなんて、早く追い出すつもりだった。

あたしが追い求めているのは、記憶を失っていた時のケイ。
無邪気に笑い、人に懐いてきたケイ。

だから本来の姿になったケイは、自分の好きになったケイなんかじゃないと否定し、忘れようとしていた。


だけど……



「理屈じゃ…ないんです。
 彼に惹かれているのは……。
 だからたとえ、今の彼があたしを見てくれなくても、あたしが彼全てを追い求めているんです」



気づいてしまった。

あたしが好きになったのは、決してあの時のケイだけじゃないと……。


深く傷つき、寂しげな瞳を持つ。
時に男の顔になって、あたしを求めていたこと。


あたしは子犬のような無邪気なケイだけではなく
男の顔をするケイも好きだったということ。
 
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