甘いペットは男と化す
 
と言っても……


「あー不安……」

「先輩、どうしたんですか?」

「え?あ、ううん。なんでもない」


いろいろ触れてはいけない場所とか、何時ごろ帰るだとか言ってから家を出たものの、やっぱりケイを一人残していくのは心配だった。

べつに、家の中に高価なものとかがあるわけではないから、盗られるといったような心配はしていない。
本当に、拾ったばかりの子犬を家に置き去りにしてきた、はがゆい不安ばかりだ。


「いらっしゃいませ」
「2時からアポイントをとっている、ミヤタ商事の河野ですが」
「ミヤタ商事の河野さまですね。少々お待ちくださいませ」


だけど、お客様が現れれば、お決まりの営業スマイル。

だてに4年間、受付嬢をやってきたのではない。
多少、へこむことや不安なことがあっても、顔には出さないのだ。


「お待たせいたしました。
 こちらへどうぞ」


会議室の場所を確認し、お客様をお通しする。
相手に連絡して、コーヒーを出す。

もちろん、合間を縫って総務の仕事もあたしたちの仕事。

確かに慣れれば楽な仕事だ。
 
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