甘いペットは男と化す
「な、なんで……」
「アカリの忘れ物。届けに来た」
「え?」
そう言って、渡してきたのはワインレッドの小物。
あ……。
これ、あたしの名刺入れだ。
「社会人には、必須アイテムでしょ?」
「あ、うん……」
確かに、名刺を持ち歩くのは、社会人としてのマナー。
あたしも年に一回、名刺を100枚ほど作成してもらう。
だけど、今まで名刺を使って仕事をしたことなんかない。
基本、受付と総務の仕事となれば、外部とのやりとりはほぼない。
だから最初の頃は名刺入れを持ち歩いていたけど、今となっては棚の上に置きっぱなしになっていて……。
「これ見て、ここが分かったの?」
「そう」
そこに入っている名刺には、もちろんあたしの名前と会社名が記載されてある。
顔をあげれば、
「いいことしたでしょ?」
と、目を輝かせてじっと見つめるケイがいた。
「あ、ありがとね」
「うん」
一言お礼を言うと、ケイは本当に嬉しそうに頷いていた。