甘いペットは男と化す
 
     ***


「さてと……」


気づけば夜の21時。
こってしまった首をかきこき鳴らしながら、大きくため息をついた。


そろそろ帰ろうかな。


隣の菅野ちゃんは、とっくに帰っていて、フロントにはあたし一人。
仕事は終わってはいたけど、引き継ぎのマニュアルなどを制作してたらこんな時間になっていた。

パソコンの電源を落とし、引き出しから鞄を取り出した。


「おつかれ」
「……矢代さん…」
「今帰り?」
「はい」
「駅まで一緒に帰ろうか」
「……はい」


疑問形で聞いてこなかったのは、そこにあたしの拒否権を与えないため。

決して下心とか含まれてはいないことは分かっていたので、その誘いに承諾した。




「雨あがったみたいだね」

「そうですね」


すっかり梅雨となっている季節。
今日も午前中は雨が降っていたけど、どうやら今はあがったらしい。

若干滴が残っている傘を片手に持ちながら、矢代さんの隣に並んだ。
 
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