甘いペットは男と化す
 
「……ごめん」
「べつにアカリが謝ることじゃないよ。
 記憶がないって言っても、どんな料理とかどんな味とかは分かる。
 ……けど、自分がどんな味が好きだったのか覚えてないだけ」
「そう、なんだ……」


なんとなく、記憶喪失のことを調べていたけど、どうやらケイは積み重ねてきた「思い出」というものが抜けているようで、
知識等のものは忘れてはいないパターンらしい。

だからこうやって、当たり前のような会話もできるし、生活も出来る。


「だからアカリの好きなもの」
「……うん」


そう言われて、何を作ろうか迷った。


外はまだまだ吐く息が白くなるほど寒くて、春がすぐそこまで来てはいるけど上着も手離せない。

そんな中、食べたくなるものは……



「………クリームシチュー」



ケイと出逢った日に降り積もっていた、白い雪から連想された。


「シチューか。うん、食べたい」

「じゃあ、ご飯じゃなくてパン買ってこう」


あたしの答えに、ふんわりと微笑むと、ケイは嬉しそうに歩き出した。
 
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