甘いペットは男と化す
「お待たせ」
「ん!」
定時から15分ほど過ぎたところで、身支度をしてオフィスを出ると、エントランス前にケイの姿があった。
ケイはあたしを見つけると嬉しそうに笑い、本当に子犬のように駆けてきた。
「寒かったでしょ」
「大丈夫。アカリを待ってるためなら、どんな寒さでも耐えられるし」
「……」
彼のこれは、天然なんだろうか。
どんな女も悩殺しそうなほどのスマイルは、ハッキリいってあたしも例外なんかじゃなくて……。
でも年上好きのあたしは、なんとかこの可愛らしい彼の微笑みから、逃れられていた。
「夕ご飯、何食べたい?」
「作ってくれるの?」
「そりゃあ……」
どっちにしたって、ケイがいなくても自炊してるものだし。
まさか、自分の分だけ作って食べるわけにはいかない。
「んー……アカリの好きなもの」
「べつになんでもいいんだよ?ケイの好きなもので」
「俺、分かんないから」
微笑んで答えるその答えに、一瞬なんでか分からなかった。
だけど、すぐに彼が記憶喪失であることを思い出して、口をつぐんだ。