俺様生徒会長に鳴かされて。



「ほんとを言うとね…今朝は君のことを考えようと思って来たんだ。

そしたら実際に君に会えた…すごい偶然だよね。

気になって仕方ないんだ。君のこと。

君の眠った才能を埋もれさすのは、がまんできなくて」



「……」



わたしは意を決して、言わなきゃ、と思っていたことを伝えた。



「…ごめんなさい…。

お気持ちはもったいなくて、すごくありがたいんですが…。

やっぱりわたしは、歌手になんてなれそうにありません…」


「うん。

わかってるよ。

とても残念だけど、無理強いさせてもいいものは生まれないしね…」



でも



と続けると、雪矢さんはわたしを見つめて、穏やかに微笑んだ。



「『恋人にしたい』って希望なら、まだ考えてみてくれる?」





え…?





コトリ、とマグカップがテーブルに置かれて、

穏やかな笑みが、テーブルごしに近づいてきた。



カフェラテの、甘くてほろ苦い香りに、意識もしびれていく。



「こんなメガネ、はずそ?」



すっ…と耳が擦れて、視界が一気にぼやけた。



「ん…やっぱ、すげー可愛い。

どうしてコンタクトにしないの」



ぼやけた視界の中で、雪矢さんがたしなめるように囁く。



「清楚で可愛いけど、三つ編みもやめちゃおう。

昨日みたいに、ふわふわの髪でいなよ。

そっちの方がずっといい」



手が伸びてきて、わたしはとっさに仰け反る。



けど肩をつかまれて、身動きできなくなる。



「だ…」


「…だめ?

どうして?」


「あ、やと、くんが…」



と口にしたとたん、雪矢さんの表情が強張った気がした。



「ふぅん。彪斗が『だめ』って?

…ほんとずるいな。彪斗ばっかり」





ぐいっと、ヘアゴムが取られて、痛みを覚える。



乱暴なくらいの手つき。



やさしいと感じていた雪矢さんとは思えない行動に、背筋がすこし、ひんやりとなる―――。





いや…。


こわい…。





彪斗くん…。
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