まどわせないで
　AV？
　それはその、いわゆるアダルトビデオってやつですか？
　みるからにモテそうなルックスのひとが、声をかければ喜んで女の人が体を投げ出しそうなものなのに。そんなひとが、ラブホテルでAV？
　半ば強引にラブホテルに連れてこられて、わたしはAVを見る付き添い？
　それにもうひとつ、大きな問題。

「如月さん！　わたし、大麦じゃなくて小麦ですっ」

　テレビの前のダブルベッドに座り、リモコンを手にした陸が、ぷりぷり怒る小麦を見た。

「小麦……？」

　170ｾﾝﾁ近い小麦の、足元から頭のてっぺんまで視線を動かす。

「どうみても大麦だろ」

　大麦！
　身長が高いの気にしてるのに、酷い。

「大麦なんて名前じゃありません！　身長が高いこと気にしてるのに酷いです」

「女性？」

　リモコンの電源ボタンを押した陸が再びこちらを見る。訝しげな顔をして。

「この部屋に女性がいたか？　そんな胸のないやつが女性扱いされると思ってんのか？」

　さらっとのたまった。

「居づらくなった胸が家出したのか？　可哀想に。捜索願い出さないとな」

　更にのたまった。
　ふ、フフフ。
　聞いてるこっちが爽快になるくらい、ことごとくひとのコンプレックスを突いてくれる。
　顔はいいのに、性格最低。
　怒りに握りしめた拳がぷるぷると震えた。
　明日、新聞やニュースで、ラブホテルで殺人事件という話題がでても、殺人の理由を知ったひとたちは、きっとわたしを哀れんでくれるに違いない。
< 10 / 80 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop