まどわせないで
「食事中なんですけど」

「またかよ? お前いつも食ってるな」

 余計なお世話。
 いつもそのタイミングでくるのは誰!

 インターホンでのやり取りを、どこで誰が聞いているのかもわからないので、いいたくなる気持ちをぐっと押さえる。

「俺を待たせるな」

 インターホン越しでは済まない用件のようだ。
 苛々とした陸の口調に、小麦は籠城を諦めた。
 ドアを開けると、当たり前のように陸が入って来る。靴を脱いで小麦の前を通りすぎ、部屋へ入っていく。その手には、ヘッドホンとケース入りのCDらしきものを持っていた。

「ってあの、わたしのうちなんですけど!?」

「コンポないのか?」

「あ、そっち」

 当たり前のように聞くもんだから、普通に答えてしまった。普通じゃない展開に戸惑うも、後の祭り。

「じゃなくて、音楽聞きに来たの!?」

 CDをセットした陸が、小麦の腕を掴み、コンポの前に座らせる。ヘッドホンを繋げて、小麦の耳に当てた。

「聞いとけ」

 といって、自分は小麦の作った料理が並ぶテーブルにつく。しっかり小麦が見える位置に。

「これ、お前が作ったのか?」

 感情の見えない顔で問いかける。どちらかというと、目に入る料理が不快そうでもある表情。その表情にムカッとした。

「夕飯は毎日ちゃんと自分で作って食べてます。食べないでくださいね。わたしのご飯なんだから」

 指を指して威嚇したところで、ヘッドホンから小麦の耳に、街中の雑踏の音に紛れて、靴音が近づいてくるのが聞こえた。
 なにを聴かせるつもり?
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