まどわせないで
 エレベーターに入って、動きだした音がした後、

『外に泊まりなんて初めてだね』

 僅かな間の後、エレベーターの動く音にまぎれて、チュッとキス音が耳に届いた。
 ヘッドホンから聞こえるリアルなキスに、心臓が跳ねる。
 なんだか大人のムード。
 泊まりってことはつまり……?
 どこまでこの話しは展開していくのかと、ハラハラした。
 部屋へ入ると「わたし」が興味津々で部屋を探索しているらしい。

『はしゃいでるね』

 楽しそうに笑う声。一緒になって楽しんでいることが伝わってくる。

『でも、ぼくの相手も、してほしいな』

 衣擦れの後に、後ろから声が聞こえて、まるで抱き締められているようだ。

『ね?』

 耳に、年上の男性が可愛らしく懇願する掠れた囁き声。
 そこからはもう、大人ムード全快だった。

 そこには如月さんと行ったラブホテルで、わたしが叫んだ理想の男性がいた。
 紳士的で、優しく、いつも自分にだけ微笑んでくれて、なんでもリードしてくれるひと。
 甘くて、愛の言葉もちゃんと囁いてくれて、穏やかで、ときに男らしく、愛してくれる。

 羨ましいと思いつつ、赤面する言葉の数々、キスの嵐、ここまでは展開的にもわかるけれど、その先のよくわからない水っぽい音や、如月さんが『ここ……とても美味しいよ』と喉を小さくゴクッと鳴らして飲み込んだのとか、わたしにはどんなことが行われているのか理解できなかった。
 ただ、ひとついえるのは、とんでもなくエッチな内容で、無理矢理聞かされてるわたしの耳が、妊娠してしまいそうなこと。
 聞いてるだけで、体が熱くなる。
 最後に『一緒に暮らそう』だなんて、プロポーズじみたことをいって、終始甘々で終わった。
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