まどわせないで
 終わったとたん、力つきた。
 わたしはなにもしてないのに、体から力が抜けて、いまにも溶けてしまいそうな感じ。もし、ひとりで聞いていたら、ベッドに横になって、思い返しては胸をドキドキさせていたかもしれない。
 でも現状は、ひとりではない。
 ここでそんな姿見せられない。ずっと様子をうかがうように見ていた如月さんに、弱味を見せるわけにはいかない。
 ふにゃふにゃの体が、回らない頭が、もどかしい。
 手をあげるのも億劫だったけれど、ヘッドホンを外してカーペットに、開いた両手をついて体を支えた。ガクリと頭を落とし、うなだれた。肩が浅く繰り返される呼吸に揺れる。とても、如月さんを見る余裕はない。というか、勇気がない。
 いま、自分がどんな表情をしているのかわからなかったから。それを見た如月さんに、また余計なこといわれそうだったから。

「まるで、自分が愛されてるように感じただろ。聴き手がよりリアルに体感できるように、特殊なマイクを使って収録したんだ。ヘッドホンで聞くとより効果的だろ? で、どうだった? 感想聞かせろ」

 耳もとで、さんざん甘いことを囁いてくれた声が、落ち着いた口調で問いかけてきた。
『君が好きだよ』高ぶった声で囁かれたばかりの、声が。
 みぞおちが甘く疼く。
 まだCDが聞かせた甘い夢から抜けきれてない状態で、とてもじゃないけど、平静なんて装えない。
 うなだれたまま沈黙を貫いた。

「………」

「まぁ、聞くまでもないか。欲情した顔してる」
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