まどわせないで
1+1=?
 小麦は不機嫌さを隠そうともせずに手元のお皿を睨み付け、その上に盛ったローストビーフにフォークを突き刺していた。
 華やかなパーティー会場。落ち着いた照明の下、たくさんのきらびやかな装いのひとたち。
 ビュッフェ台には彩飾豊かな前菜から、美
味しそうな匂いを漂わせた肉や魚のメインディッシュ、甘い香りのフルーツやケーキ等のデザートまで。まるで色とりどりの花が咲いたような料理が並んでいる。
 普段の小麦なら、美味しそうな料理を目の前に、どれから食べようか迷うのを楽しみ料理を味わっているのに、いまの彼女にはそんな余裕はなかった。


 少し前。
 またまた色気がないといった陸に、はじめてキスをされた。陸の遠慮のない言葉に傷つき、腹をたてた小麦はその不意打ちのキスに、おどろき、そしてうっとりした。
 それなのに、あいつは。


 唇を離した陸は、指で小麦の顎を掴んだままじっと瞳をのぞきこむ。

「ほのかに赤く色づいた頬。キスで潤んだ瞳。乞うように薄く開いた唇……まぁまぁだな」

「……?」

 キスの余韻にぼんやりとしている小麦はただただ、陸の僅かに閉じた、まつげの奥の澄んだ瞳を見つめた。

「全くないよりはマシ、か」

「なに……?」

 キスの衝撃に思考回路が止まってぼんやりしたままの小麦に、陸は楽しそうな笑みを浮かべた。その澄んだ瞳が生き生きと輝く。

「色気」
< 45 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop