まどわせないで
「しらばっくれるなよ。こそこそなに話してたんだ?」

 陸のほうは社長と話しが続いているようだ。

「あ。育ての親を問い詰めるような息子に育てたつもりはないぞ~」

「あなたのとこに行ったときにはすでに人格は出来上がってまし……やめろって」

 いたずらっぽい笑みを浮かべた社長が、手を伸ばして可愛い息子にするように、頬を突っつこうとしたのを陸が交わす。

「いい。直接本人に聞く」

 こちらに向いた陸の表情が真剣すぎてたじろいだ。後ろに下がろうとしてバランスを崩す。
 あ……少し酔ったかもしれない。
 酔いが回ってきたのか、足元がふらつく。頭がぐるぐる回り出す。

「大丈夫?」

 すぐそばにいた悠が腕を取って支えた。支えたと同時に陸の鋭い声がかかる。

「触るな」

「触るなって、転ばせとけっていうの?」

「……違う」

 陸の反応に悠が唖然とする。陸自身も自分の反応に一瞬驚いたようだ。

「お前が手を出さなくても、倒れる前に俺が支えた」

 悠から奪うように小麦を抱き取る。

「お前、飲みすぎただろ」

 小麦のぼんやりとした顔をのぞきこんでため息をつく。

「挨拶回りも済んだし、帰る。社長、いいよな?」

「あれ、もう帰っちゃうの?」

 悠の残念そうな声は無視した。

「しっかりお家まで届けてあげるんだよ」

「いわれなくてもわかってる。タクシー拾う。じゃあな」

 いくぞ。耳元に声をかけ、腰に腕を回し支えながら歩きだし、社長と悠の視線を背中に感じつつも、小麦を連れた陸は会場を後にした。
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