まどわせないで
俺が欲しいのか?
「明日つき合え」

 といわれ、となりの角部屋に引っ越してきた如月陸に連れてこられたのは、なんとラブホテル!
 キレイなマンションみたいな作りの入り口を抜けたら、部屋を選ぶ見本の画面から空室の部屋を選ぶパネルが出迎えた。陸が迷うことなく慣れた手つきて部屋を選び、鍵を貰って入ったのがラブホテルの部屋だった。
 人生初のラブホテル。
 まず、感じたのは部屋に染みついた煙草の臭い。壁紙は張り替えたばかりなのか新しく、ジュータンを敷かれた足元は、靴音を消している。入り口を入って左に大きな洗面所。反対側には御手洗い。部屋の奥へ入っていくと、まず大きなダブルベッドに驚いた。壁に添って置かれたテーブルにはテレビと灰皿、小さなスタンド。

「えっ……」

 驚愕に足が止まる。室内にお風呂がある。バスタブとシャワーの使えるスペースがあってわりと広い。なぜ、なかに入らないのにわかるのかというと、全体的にガラス張りだから。このなかでなにかしようものなら、ベッドから全部丸見え。
 ラブホテルってみんなこうなの?
 小麦の思考回路は、目の前に広がる光景についていけなかった。クラクラとする頭で如月を見てドキリと心臓が跳ねた。向こうは向こうで、小麦の次の一手をうかがうように、こちらをじっと見ている。黒く光る瞳に、心の奥までのぞきこまれているような感覚に戸惑った。
 顔から視線を外さないまま、陸は小麦に近づいた。小麦はその距離を保とうと1歩下がる。
< 8 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop