吸血鬼の翼




「この世界は歪んでいる…」

唐突に発せられたルイノの言葉に益々、イルトは困惑するばかりで沈黙した。

「…イルトは知ってるかな?今の世界より、遥か昔の世界を」

「……?」

ルイノは苦笑いを浮かべながら、イルトに世界の事を問う。
その質問に満足に答える事が出来ず、首を横に振った。
ルイノはそうだよねと相槌をして、先を促す。

「…元々、人間と半獣人の間には今の世界みたいに差別なんかなかったんだ。互いを尊重し、調和と秩序を守り、決して争いが起きる事のない様…そうして世界を保って来た。」

「え…」

その事実に驚愕したイルトは絶句してしまう。
自分の知る人間と半獣人の歴史は酷いものでしかない。
分かり合う事もない、理解しようともしない自己主張の強い生き物だ。
史学書にも、ルイノが言った様な事は一文字も書かれていなかった。

「それが“或るモノ”によって歴史を歪められた。…魔の者に。」

「…!」

次々と出てくるルイノの言葉にただ、呆然とした。
話が漠然としていて、雲を掴むみたいな感覚に陥る。

「この世界が歪んだ原因は人間や半獣人の疑念、恐怖、侮蔑や劣等感…負の感情でもあるんだ。」

「負の感情を煽ったのは、その魔の者だと…?」

ルイノの話の意図を読んだイルトは先を続けた。
それに対して、ルイノは小さく頷く。

「…それを正す為の方法が1つだけある。」

新緑の瞳は長椅子の間にある道の方、扉へと向けられる。
ルイノが手の平を真っ直ぐ翳すと扉は徐に開かれた。

「…なっ」

開け放たれた扉の向こうは在る筈の森や空ではなく、真っ白な空間だった。



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