吸血鬼の翼
何もない真っ白な空間…
それが意味するものとは、別の次元に繋がっているからだとそうルイノは口を開いた。
「イルトを守る方法とこの世界を変えるには、異世界を渡らなきゃいけないんだ…」
「…でも、これは“禁忌”だろ…こんな事して、ルイノは大丈夫なのか?」
イルトは思案の瞳でルイノを見つめた。
それにルイノは微笑んで首を横に振る。
「…見つかったら、大罪を犯したとして捕まるだろうね。」
「だったらっ…」
こんな事して、俺が助かったとしても…結果的にルイノを失うなら意味がない。
例え、生き難い世界でも、ルイノやラゼキ達さえ、居てくれれば、他には何も望まないんだ。
「……イルト分かって欲しい、君を逃がしてあげられるなら、僕は禁忌だろうと選ぶよ。」
決して揺るがない新緑の瞳。
誰にも捻曲げようのない固い決意。
イルトはそんなルイノを前にして何も言えなくなった。
ふと、ルイノの袖から覗く腕に目が行った。
その腕には魔法陣に使う文字が記されている。
黒く浮き上がる文字はルイノを侵蝕しているみたいで、イルトは嫌な気分になった。
きっと、この“禁魔術”を使う為に必要だったのだろう。
イルトは目を逸らさないで、じっとルイノの腕を見つめた。
「…何で…俺の為に…そこまで…」
「君は人間と半獣人の間に生まれた優しい子……本来なら、この世界にとって君は平和の象徴なんだ。」
「……!」
この世界に生まれたイルトにとって、ルイノは己の救世主だと改めて思う。
それは今までだって、同じ。
変わらないもの。
いつだって、傍で励ましてくれたこの司祭には恩を返しても返し切れないくらい沢山貰った。
だからこそ、ルイノの言葉はイルトの心にちゃんと響く。
嬉しい…
瞳いっぱいに涙で潤ませたイルトは袖でそれを拭った。
「……そういえば、ラゼキ達は何処なんだ?」
ルイノの話で頭が一杯になっていたから、今まで気付かなかったが、ラゼキ達はまだ…あの焼けた寝室の中に居るのだろうか?
それよりも、無事でいているのか?
思案の瞳でルイノに問い掛けると、ニッコリとした笑みが返って来た。
「大丈夫、心配しないで、あの子達は安全な場所へイクシスが避難させているから。」
それを聞いたイルトは胸を撫で下ろし、安堵の溜め息を吐いた。