吸血鬼の翼




「待てよ!篠崎!」

「ついさっきって先生言ってたから、まだ近くに居るのかもしれない!」

佐々木の呼び止めを聞かずに美月は真っ直ぐ出口まで向かう。
素早く2つの鞄を靴箱のロッカーに仕舞い、靴は履き替えずにそのまま、学校を飛び出した。

佐々木もそれに倣い、美月の後を追いかける。
必死になって走る美月の後ろ姿が、佐々木にはまるで親を探し彷徨う小さな子供に見えた。
実際、宛もなくただ走り回っているみたいだ。
尋常じゃない美月の焦りに佐々木は頭に疑問が浮かぶ。

確かに今日の千秋の様子は何処かおかしかった。
だが、直ぐにどうこうなるものでもないだろう。
それに千秋は携帯を持っているのだから、かければ良い事だ。
もしかしたら、家に帰っているのかもしれないのに。
何故、彼女はそんなに必死なのだろうか。

“行かなきゃ、あの人の元へ”

椎名が言っていた保健室を出て行く前の千秋が残した言葉を佐々木は思い出していた。

あの言葉は一体どういう意味何だ?
普通に考えりゃ特別な存在を指しているのだろうが、その考えを肯定したくはない。

俺の場合は篠崎とは違う意味で必死だが…

普段、大人しい子なだけに彼女のギャップに佐々木は驚く。
興奮状態の美月を何とか止める為に手を伸ばし、後ろから肩を掴んだ。
それを振り払う様に美月は足掻き出した。
しかし、そこはやはり男女の力の差でびくともしない。

「佐々木君、離して!」

「おい、落ち着けよ!篠崎、何でそんなに慌てんだよ!?」

息を弾ませながら、美月は佐々木の手を解こうと体を捻らす。佐々木の言葉等、耳に入ってない様子でただがむしゃらに走り出そうとする。
それを見兼ねたのか、佐々木は今度は美月の両肩を強く掴んで強引に向き合わせた。

「しっかりしろ!お前、変だぞ!?」

「嫌っ」

美月は左右に首を振り、佐々木の言葉を聞こうとしない。
今の美月は冷静になって考える余裕等、何処にもないのだ。

何で皆居なくなるの?
私から大切な人を奪わないで!
もう誰も失いたくない。
置いて行かれたくない。
私を残して行かないで!



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