吸血鬼の翼
* * *





美月達が去った後に残ったこの空間は寒さの所為もあり、ツンと冷たい空気が張り詰めていた。

刺される様に痛い寒さに動じず鋭い視線で自分の前にある暗い踊り場を見つめる。

すれば向こうから、ふぅと抜ける溜め息を吐いた気配がしてイクシスは益々、警戒心を強くした。

コツコツとブーツ特有の鈍い音が廊下に響き渡る。
暗がりの中に女性らしき影を見つけたイクシスは数歩引き下がった。

「アラぁ~何処の鼠が入って来たかと思えば、可愛い坊やじゃない!」

朧気だったその人物の姿が次第に月明かりで照らされていく。
服装は冬だというのに両肩を出し胸から腰の下くらいまで包帯のような紫色の帯状の布で体を巻き付け、施してある。

そこから下のスラッとした長い足はロングブーツを履いており、イクシスの近くまで優雅に歩いて来る。

次第に輪郭も浮き彫りになり、両耳は先端が尖っており、ピアスがキラキラと光る。
長い銀色の髪を後ろ3つに結って紺色の瞳でイクシスを捉える。

高いトーンで喋る女にイクシスは些か眉間に皺を寄せた。

「怖い顔しないの!折角の綺麗な顔が勿体無いわよ」

「………煩い……」

耳につく様な声で話す女だ。

心底嫌そうに歪められたイクシスの表情は女から漂う強烈な香の匂いを拒否する様にもう一歩後ろへ下がる。

「私はリフィアって言うの。宜しくね?坊や…」

「……お前か…あの香を使って…人を集めてるのは……」

イクシスはいつもより低い声でリフィアと名乗った女に確信した様に言い放つ。
そして手の平を握り締め、蒼い瞳をキツく細めながら睨む。

するとニッコリと薄ら笑いを浮かべたリフィアは両手を体の前に出した。
それをそのまま、手の平を上に翳すと両脇までゆっくりと流す動作をする。
リフィアの手から、此所まで辿って来た香と同質の匂いがイクシスの鼻腔を掠めた。

「フフフ、当・た・り!このテピヨンでね…尤も坊やには効かないみたいだけどね!」

癖の強い花の香りもテピヨンには混じっていて、強力な匂いだが、イクシスはソレを疎むも怯む事はなかった。
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