吸血鬼の翼
少しの間、戸惑った―。
いきなりイルトの事を聞かれ、私は目を泳がす。
ラゼキは動揺する美月に構わずに黙って返事を待っていた。
「ミヅキは何も知らないぞ!」
「お前は黙っとけ。」
イルトも慌てた様子でラゼキに代弁するも、彼はそれを聞かなかった。
言うか言わないか迷ったが、在りのままを伝えるのが一番良いと思った美月は決意して口を開く。
「…彼が吸血鬼だって事は、知っているわ。」
「………。」
静かに告げた美月に対しラゼキは一瞬、顔を曇らせたが、観念して仕方のないという表情に変わり、深い溜め息を吐く。
「…そうか。」
するとラゼキは目を瞑り、彼の手の平からは微弱ながら白い色をした光が見えた。
それに気付いたイルトは彼の腕を素早く掴んだ。
美月は状況の把握が出来ず、ただ困惑な思いを抱く術しか持つしかない。
「やめろっ!何をするんだ!」
「自分で蒔いた種やろ…しっかり、摘みとらなな。」
そう言って冷たくイルトの手を払いのける。
再び目を開いたラゼキの瞳の色は揺らめいていた。
そんな様子を少しは理解した美月は動揺を隠しきれず、体が震え始めた。
「…嬢ちゃん。そんな怖がらんでもええで…、心配いらんわ。記憶を隠蔽するだけや…」
…!
隠蔽…
それって記憶を消すって事?
今までイルトといたあの記憶を………
あの日常にまた私は戻るの?
虚無を抱いた生活に?
そんなの…
嫌だ──────!!
心の中で叫んだ美月は、自然と足を前に走らせていた。