吸血鬼の翼
「やめて…!」
…一瞬の出来ごとだった。
拒否を言葉にした美月はラゼキに向かって突進して抱きつく様な形になってしまっていた。
だが今はそんな事気になんかしていられない…!
隠蔽なんてされてたまるもんかっ!
嫌だ!
イルトは私に初めての感情を…くれた…。
これは私にとって、とても重要な事!
絶対に終わらせたくない…!
そう思い瞼をギュッと閉じてラゼキの服の襟元を体は震えながらも必死に掴んでいた。
そんな美月の様子を見兼ねたのかラゼキは溜め息を吐く。
するとラゼキは美月の腕を取って、グッと引き離す。
驚いた美月は瞼を開き、目の前にいる彼を見る。
ラゼキは美月の顔を逸らさずに真っ直ぐと橙色の瞳で見つめていた。
「…ええか。嬢ちゃん、“これ”は嬢ちゃんにとってもええ事なんやで。吸血鬼なんて物騒なだけや…関わらん方が身の為なんやで。」
そういってラゼキは顔を強張せながら美月に諭す。
美月は少したじろいだが、勇気を出して彼に自分の思いを聞いてもらおうと口を開いた。
「…そうかもしれない。貴方の言ってる事の方が正しいのかも…でも私…」
だが最後まで言えず…、気付くと瞳から涙が溢れていた。
その滴は手の甲に落ちて流れていく。
…もう目に映るものが涙で潤んでよく見えない。
イルトは今どんな気持ちでいるのだろうか─?
こんな私は彼にとってお荷物なのかも…。
美月は声を出すまいと両手を口にやって泣くしかなかった。