吸血鬼の翼
暫くの間、沈黙が部屋を支配していた―。
美月は気力を失って涙を拭いもせず、下を向いたまま。
誰かが溜め息をついたのを耳にした。
美月は少し肩を震わせたが、もう抵抗する体力もない―。
やっぱり私は記憶を隠蔽されるのかな…。
そんな事をぼんやりと考えていた。
「…すまんな、嬢ちゃん」
哀愁を漂わせたラゼキの声が私の頭に響いた。
なんでそんなに辛い声をしてるの…?
美月は記憶を隠蔽される覚悟を決めて瞼をゆっくりと閉じる。
もう、終わりか…
結構、呆気なかったなぁ…
すると何かが美月とラゼキの間に割って入って来た。
「ダメだ!ミヅキの記憶は消させない!」
イルトの声だ…。
必死になってくれている…。
私の為に─────
そう思うと、美月の瞳から涙が溢れた。
今度は悔し涙ではない。
「お前…、自分のしとる事がわかってんのか!?」
ラゼキは信じられないとでも言いたげに声を荒げる。
イルトはそれに動じず、強く彼を睨み付けた。
「…わかってる!でも他に方法があるだろっ」
真っ直ぐに見て逸らさないイルトの様子をラゼキは暫く見ていたが、やがて片方の手の平に宿していた白い光がスゥッと消えて無くなっていた。