吸血鬼の翼
「一応、忠告しとくわ…行く言うんやったら、絶対に油断するな。相手は甘ないで」

「…それでも、行くよ。私の親友だから、私が取り戻すの」

美月の真っ直ぐな薄茶の瞳を見たラゼキの口から自然に笑みが零れる。
イルトに関する記憶を消したくないと言った時も同じ瞳をしてた。
芯を持った強い瞳。
誰にも曲げる事が出来ない純粋な心。
ラゼキは再度、美月の頭を手の平で撫でる。

「え?何?」

「いや、嬢ちゃんは相変わらずやなって」

親友の為に体を張るなんて、ええ根性しとる。
大した子や、この子は強い何かを秘めている。

「…ラゼキ、止めて。何か恥ずかしい」

「何でや?そんなん今更やんか、さっきはピーピー泣いとった癖に。」

「わわー!分かってるから、もう言わないでよ」

ラゼキに先刻の事を指摘された美月は顔を真っ赤にして怒鳴りつける。
そうしてると物音で気が付いたのか、部屋のベッドで寝ていた佐々木が上体を起こした。

「佐々木君!起きたのね、良かった」

「篠崎…と誰だ?」

目が覚めたばかりの佐々木は何処かぼんやりとした瞳で美月の後ろにいるラゼキを見やる。

自身の見知らぬ存在に目が行くのは当然の事だ。

また誤魔化さなくてはと美月は言い訳を作るのに焦り始める。
そんな彼女の様子を見て佐々木は1人で解釈してああと声を上げた。

「篠崎の彼氏か?」

「ち、違うよ!勘違い!ただの従兄弟だから!」

「……力一杯、否定せんでもええやん。」

美月は佐々木の考えを捲くし立てて否定する。
その傍ら、ラゼキは胸中に妙な傷心を抱いていた。

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