吸血鬼の翼
「ラゼキ…?」
イルトは疑問を含んだ声でラゼキにそう言った。
美月も状況が分からないまま、ラゼキを見やる。
そんな2人を余所にラゼキは盛大な溜め息を吐いた後呆れる様に口を開く。
「…もう止めや、何かアホらしぃなってきたわ」
するとラゼキは『降参です』と言わんばかりに両手を挙げた。
やっとその意味を知った美月とイルトはお互いの顔を見合わせて喜ぶ。
しかし、イルトに元気はなかった。
「…ゴメンな、ミヅキ。出遅れて‥」
イルトは申し訳なさそうに美月に謝罪する。
美月は首を左右に振り、ニコッと笑って見せた。
「…ううん、ありがとう。嬉しかったよ」
そうイルトに言うと彼は少し照れて再び喜んでいる。
しかし、それを制止する様にラゼキの手がイルトの服の襟を引っ張った。
「…っ、何だよ?ラゼキ、痛いぞ‥」
「水をさす様で悪いけどなぁ。隠蔽以外の方法があるって言ってたやろ…あんのか?その方法とやらは。」
「………。」
ラゼキの質問に沈黙していたイルトだったが、次第に額から汗を滲ませているのを誤魔化す様に笑った。
「…イ~ル~」
「他に方法があるよ、きっと…」
「“きっと”じゃぁ~あかんやろ~」
怒っているのか、それとも呆れているのかラゼキは彼の頬を摘んだ。
…きっと、どっちもだろうけど。
苦笑いを浮かべながら美月は2人の様子を暫く見ていた。