吸血鬼の翼
不安がとれたのか、美月は床に座り込んでしまっていた。
…良かった。
改めて安堵した後、頭の中に1つ疑問が浮かぶ。
それは…これからの事。
美月はイルトとラゼキの顔を交互に見た。
その不安そうな視線を感じた2人はこっちに気付き、美月に視線を落とした。
「…何や、嬢ちゃん。何か言いたそうやな」
「…ミヅキ?」
美月の様子を不思議に感じているようだ。
少し口にするのを躊躇ったが、いずれにせよ必ず言わなければならない事だと理解していたので答えるしかない。
「…これから、どうするの?自分達のいた…“世界”に帰るの?」
そう言って美月は2人を見上げた。
それを聞いたイルトはラゼキに視線を戻して何かを訴えている様に見えた。
ラゼキは頬を指で軽く掻く。
「…そんな顔されたら困るやんけ。…しゃ~ないなぁ、しばらく此処におるか」
「ミヅキ…!」
“この世界”にいる事を許されたイルトは再び美月の方に振り向き喜びを伝えようと彼女の名前を呼んだ。
美月も思わず笑顔が零れる。
「―イル。」
―しかし、又もやイルトの背後から彼の声がする。
真顔で何か危険を諭そうとしているラゼキの雰囲気にイルトも美月にも緊張感が伝わった。