吸血鬼の翼
「貴方だけは…」

憤り涙ぐむ美月の姿を見て、ロヴンは変わらずその口に笑みを湛えている。

「なぁに?赦さないとか言っちゃうの?」

「…っ」

いつの間にかスラリと伸びているロヴンの爪が美月の頬へ絡み付く様になぞって行く。
その際に勢いがついたのか、美月の頬に細い線が走り、血が滴った。

痛みで目を瞑っていると生暖かい感触が頬に降って来る。

目を開けば間近にあるロヴンの顔。
それに驚いた美月は慌てて、仰け反って避けた。

「な、に…」

「アハッごめんね、血を見ちゃうと欲しくなるから」

ペロリと舌なめずりするロヴンに美月はどうやら頬を舐められたのだと悟る。

「嬢ちゃん、逃げろ!」

間髪容れずに降りかかったラゼキの声に美月は我に返って反射的にロヴンから後退る。

逃げる?
皆を置いて私だけ、逃げるの?

「逃げちゃうのぉ?仲間がズタズタにされても良いのかな~」

思考が停まった美月の耳にロヴンの声が鋭く届く。
可笑しそうに楽しそうに嗤う。
其処で初めて美月はロヴンが恐ろしいヒトなのだと実感した。

本当に遊んでいるのだ。
まるでゲーム感覚の様に自分達を言葉や行動で操る。

それが、とてつもなく怖いのだと改めて思う。

思わず口が戦慄く。
怖い、怖い、怖い。

本当は今直ぐにでも逃げたい。
だけど、皆を置いて行くなんて私には出来ない。

「…逃げたりなんか、しない…」

美月はゆっくりと立ち上がるとロヴンに対する恐怖と戦いながら、薄茶の瞳に強い決意を宿していた。
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