吸血鬼の翼
イクシスの射抜く様な強い眼差しを物ともせずにロヴンはニッコリと微笑む。

あどけなさを残す子供みたいな表情。
そこからは想像つかない位に酷い邪気が溢れていた。

「言ったでしょ?好きな様にするってね!聞こえなかったのかなぁ」

ロヴンはクツクツと喉を鳴らし、イクシスを扉の向こうへと撥ね除けた。
それを見た美月は駆け寄ろとするが、直ぐにロヴンによって遮られる。
そして軽々と美月の胸倉を掴み上げ、扉の外へと強引に連れて行く。

「…や、何するの!?…離して!」

怖さもあったが、ここで気圧されていては千秋達を助けられない。
美月はロヴンの手から逃れ様と扉の前まで来ると足掻き出した。
すると、ロヴンは掴んでいた手を離すと軽く押しやり美月を床へと転がせる。

「嬢ちゃん!」

名前を呼ばれて頭を持ち上げると数歩先に居たのは満身創痍となったラゼキの姿だった。
顔は右頬が少し腫れていて、額からは血が流れている。
肌が見える体のあらゆる所に青と紫に変色した痣が痛々しく残っていた。

「…ラ、ゼキ?」

そんな彼の容態を目の当たりにした美月の表情は一気に真っ青に染まる。

愕然とした美月は腰を抜かし、へたり込む。
ソレを面白そうにロヴンは深紅の瞳に映す。

「どうしたの、気分でも悪いのかなぁ、お姫様はぁ」

「…っ…」

ロヴンはその場にしゃがみ人差し指で美月の顎に触れると、そのまま上と向かせる。
必然的に深紅の瞳と薄茶の瞳が搗ち合った。

この男が皆を傷つけた。

千秋や佐々木君。
攫われた少女達。
ラゼキにイクシス君…

そして、あの少年にも。

赦せない、絶対にこのヒトだけは赦さない…!


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