吸血鬼の翼
「俺が何言おうとしてんの…、わかんな?…イル。」
「…ああ。」
ラゼキはイルトだけに伝わる様、示唆して確認を得ようとした。
…どういう意味?
皆目見当もつかない美月は黙って2人の会話を聞いている。
イルトは少しうつむいて眉間に皺を寄せていた。
何処か重い空気を漂わせて…。
呆然としている美月にラゼキは視線を移して近くまで来てしゃがみ込んだ。
少し驚き身動(みじろ)く美月に彼は気にする仕草もなく続ける。
「…嬢ちゃん、記憶を消さんって事はホンマに大変なことなんやで?」
ラゼキは警告をする様に美月にそう告げた。
何かは分からないけど、きっとこの人は私の事を思って記憶を隠蔽しようとしていたんだわ…。
―でも…、私はイルトと離れたくない。
「…それでも、記憶は隠蔽したくない!」
そう考えた結果、美月はキッパリとラゼキに伝えた。
燈色の瞳は美月の瞳を見ようと視線を逸らさない。
獲物を捉える様な…
何かを見極める様なそんな強い瞳。
―でも、美月は真っ直ぐと彼を見た。
その表情を崩さずにいると次第に真剣だったラゼキの表情が緩み、笑顔に変わっていった。
美月はそんな彼の様子に拍子抜けになってしまう。
「強い女やな、嬢ちゃん。…いい奴や」
ポンポンッと軽く美月の肩に手を置いて彼はカラカラと笑った。そしてラゼキはバッと立上がり八重歯が見えるくらい口を開いた。
「よっしゃ!2人共、覚悟は決まったな!」
「おう!」
イルトは気色満面の笑みでラゼキの言葉に同意した。
美月も慌てて頷く。
…まだ何もわからないけど、失いたくないから…。
心からそう思う気持ちに美月の胸の内に喜びが生まれた。