吸血鬼の翼
あれから数日、“何”も起きていなかった。
だが、油断は出来ずにルイノは礼拝堂を中心に丘の周辺を結界で張り巡らせ続けている。
事情を知ったイルトとラゼキもいつ来られてもいい様に準備を整えていた。
イクシスもあれからずっと泊まり込みで“異変”が訪れた時、対処出来る形で待っていた。
イルトは外から帰ってくる途中でラゼキと出くわし、今は家にある食堂で一緒に食事を採っていた。
「クラウらしき人物はこの町に居る気配はなかったんだけど…」
イルトは溜め息を吐きながら、ラゼキに話しかける。
椅子に座っていたラゼキは目をテーブルに置かれてあるカップに向けながら、中の液体をスプーンで軽く混ぜた。
「…まさか、退いたとも思われへんねんけどな。」
「ああ、そうだな。」
自分の嫌な予感はこの事だったのかとイルトは一考した。
前にも一度、クラウには会っていたが、狙われる覚えがあるのだろうかと心当たりを探したが分からない。
…吸血鬼だから?
そもそも、何故俺の事を知っているのだろうか?
「あんま、考えんなや。」
「…ゴメン。」
難しい表情をしているイルトを見ていたラゼキは静かに口を開く。
それに対し、イルトは苦笑いを浮かべながら謝った。
「取り敢えず、来たらボコボコにしたったらええやんっ」
ラゼキは明るく笑いながら、果物を頬張っている。
確かにルイノ達は強いし、頼りになる。
俺だって、この数年頑張って来たつもりだ。
相手も誰だか分かってるし、大丈夫。
イルトは自分自身にそう言い聞かせて頷く。
これからは、もう落ち込んでばかりじゃいられない。
向かって来るなら、それを打つまでだ。
肩の荷が少し軽くなった様な気がしてイルトは微笑んだ。