吸血鬼の翼
* * *
2階の寝室で熟睡していたラゼキの耳にパンッと弾ける音が聞こえてきた。
この穴が空いた感じは結界を破られたのだ。
そう確信したラゼキはベッドから素早く起きて、向かいのベッドで眠るソウヒの肩を静かに揺さぶる。
「…んだよ、ラゼキ。まだ夜中……」
「アホかっ、早よ起きろや、漸く来たみたいやでっ」
「まさかっ!?」
ラゼキの真剣な表情とその言葉にソウヒは理解し、ベッドから飛び起きた。
部屋から出ようとして2人が扉に向かう矢先、窓ガラスの激しく壊れる音を耳にする。
耳障りな息遣いに嫌な空気を漂わせる気配。
振り返れば、その窓の前には半獣人が1、2匹…否、複数の野鳥の半獣人達が窓の周辺に群がっていた。
どの半獣人も2人の身長の倍はある巨大な者達。
「ラゼキ、敵さんのお出ましだぞ。」
「見たら分かるわっ」
ソウヒは素早く体勢を立て直すとラゼキを一瞥した。
複数の半獣人達を相手にしなきゃならない。
それはラゼキにとって余裕を奪われる事になる。
勝ち負けとかの問題ではない。可能性は低いが、もしクラウが半獣人と組んでいて、イルトを狙っているのだとしたら、コレは…
「ソウヒ!ちゃっちゃと片付けんでっあんま、時間掛けてられへん」
「おうっ分かった!」
何匹もの半獣人が2人目掛けて飛びかかる。
それを躱して、ソウヒは相手の鳩尾を蹴り上げた。
ラゼキはこの部屋を壊す覚悟で攻撃系の呪文を唱え始める。
最早、自分達には迷う余地等…ない。
「…ファリント!」
ラゼキの立てられた人差し指と中指から火が灯った。
それを半獣人に向けて飛ばすと炎に変形し、標的を燃やし始めた。