きみが死ぬまでそばにいる
「謝るくらいなら、赤の他人に生まれ直して来てくださいよ。そうしたら、全部許してあげます……」
「はは……無茶苦茶を言うんだね。そんなの無理に決まってるじゃない」
「分かってますよ、でも他に方法がないじゃないですか!」
気がつけば、わたしは手を伸ばしていた。
涙に濡れた頬に触れると、彼はぴくりと身体を震わせる。
「先輩、なにを……」
「……陸」
その時、わたしは初めて弟の名前を呼んだ。
ありえない。こんなことがあってはいけない。そんなことは分かっている。
だけどもう――止められなかった。
「もう、なるようにしかならないよ」
「せんぱ……」
陸の言葉を遮るように、わたしは唇を重ねた。
一瞬の触れるだけの口づけ。すぐに顔を離せば、痛々しく顔を歪めた陸が言った。
「きっと……幸せになんてできません。それでもいいんですか?」
人はおかしいと言うかもしれない。けれどわたしはその瞬間、確かに嬉しかった。
「……いいよ、きみとなら怖くない」
こんな状況なのに、自然と笑みがこぼれる。
父の愛も、初恋の人も手に入れられなかった。そんなわたしが遂に手にいれたのだ。
この世界で一人、たった一人の弟。
それがたとえ、神にも背く禁忌だとしても。