きみが死ぬまでそばにいる
終わる
 
 ただ、殺してしまおうと思った。
 病に倒れ身動きすらできない今なら、この男は抵抗すらできずにわたしに殺されるだろう。わたしと母を苦しめた当然の報いだ。だから、躊躇することなんてない――と。自分を納得させる理由としては、十分だった。
 けれども次の瞬間、わたしは一度伸ばした手を咄嗟に引く。

「先輩……何してるんですか」

 振り返れば、扉のところに明らかに戸惑ったような陸がいた。

「なんだ……びっくりした……ノックくらいしてよ」
「しましたよ。でも反応がなかったから」

 陸はわずかに苦笑すると、後ろ手で扉を閉めた。
 作った笑顔は多分見抜かれている、ような気がする。

「本当に? 全然気づかなかったよ。来るなら言ってくれたらよかったのに。気が変わったの?」
「……先輩の」

 陸の視線が泳ぐ。その先には、意識を失ったままの父がいた。

「様子が変だったから、心配になって追いかけて来たんです」

 ぽつりぽつりと、呟くように言う陸は、どこかわたしの出方をうかがっているように見えた。
 彼がいつから見ていたのかは分からない。でも、おそらく気づいているんだろう。わたしが何をしようとしているのか。

「……わたしは、この男に目覚めてもらっては困るの。きみなら、分かってくれるでしょ。それとも――お父さんが大事?」
「……よく、分かりません。でも、自業自得だと思う」
 
< 134 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop