きみが死ぬまでそばにいる
 
 不意に視線が陸へと移る。すると、陸はまたもばつが悪そうに顔を背けた。

「才能とか言い過ぎ。運で勝ってただけだから、俺は」
「ああ――もしかして二人は、同じスクールだったの?」
「はい。びっくりしました……陸くんが同じ高校で、同じ部活だった時は。まさか水泳を辞めてるなんて」

 どうやら、天童さんはただのクラスメイトではなかったようだ。何年の付き合いになるかは知らないけれど、確実にわたしのそれよりは長い。
 「絶対に振り向かせる」――なんて自信は、過ごした時間の長さから?
 だけど、それはあなたの勘違いだから。

「ねえ、陸くんは何で辞めちゃったの? 本当にこの先もやらないつもりなの? 全国の表彰台も狙えるって、コーチ達も言ってたのに」
「まあ、いいじゃん俺の話は。過去の話だよ」

 ムカつく。その、自分だけが陸くんの過去を知ってます感。
 陸も陸だ。こんな子とキス、なんて。浮気もいいところ。

「いいじゃない。さっきも、二人で椎名くんの話をしてたんだよ?」
「え? 俺、ですか」

 ああ――ムカつく、ムカつく、ムカつく。
 わたしの二人への苛立ちは募るばかり。
 まさか、と驚いた顔をした天童さんが目に入ったけれど、構わず言ってやった。

「今朝、二人が校舎裏で一緒にいるところ見たの。隠すなら、もっと上手くやった方がいいよって」

 言葉を失った二人をよそに、わたしは用事を思い出したと言って部室を出た。
 日の当たらない廊下のひんやりとした空気がわたしの頭を現実へと引き戻していく。
 途端に、酷く動揺した。
 急に用事なんて、わざとらしいにもほどがある。いや、そうじゃない。そうじゃなくて。
 動悸が収まらない。自分でも分からない。

 ――わたし、一体何をやっているの?
 
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