きみが死ぬまでそばにいる
 
「へえ。わたしもたまに作るけど、こんなに美味しくは作れないや」
「えっ……先輩、料理するんですか?」
「普通にするよ? 失礼だなぁ」
「すみません! お嬢さまだからしないのかと」

 息苦しさも忘れて、わたしは笑ってしまった。時々、陸は気の抜けるようなことを真面目に言うから困る。結構天然だと思う。
 この子は、天童さんじゃなくても、きっと誰からも好かれる。そんなところが嫌いだった――羨ましかった。

「いいよ。別に怒ってない。ていうか、お嬢さまじゃないってば。お手伝いさんとか、今はいないし」
「今はってことは、前はいたんですか?」
「うん。昔ね、お母さんと住んでた頃」

 意味深な言葉に陸が首をかしげたので、わたしは言った。ただ淡々と、感情を込めないように。

「死んだの、去年。今は母方の祖父母と住んでる」
「……そうなんですか、なんかすみません」

 わたしの話の中には、不自然なほど父親の影が見えない。けれども、陸はあえて詮索しようとはしなかった。
 気を遣ったのだろう。別に聞いてくれても良かったのに。どうせもうすぐ、教えることだ。

「気にしないで。もう吹っ切れてるから」

 空々しい大嘘には、最早自分で笑える。吹っ切れている人間が、復讐なんて愚かなこと、考えるもんか。
 
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