きみが死ぬまでそばにいる
 
 そう認識した途端、自分でも不思議なくらいに、するすると唇が動いた。

「いえ――こちらこそごめんなさい。わたしも不注意だったし」
「そんな……僕のせいです。怪我はないですか?」

 心配そうに言った彼は、校門の方から走ってきたようだった。入学早々遅刻しそうになって焦っていたのだろう。もしかしたら、部長と同じく電車の遅延かもしれない。

「大丈夫。ちょっとぶつかっただけたから」

 そう言って笑顔を作れば、安堵したように顔が緩む。

「そうですか……よかった」

 間近で見る弟は、予想以上に普通の――善良な少年に見えた。それに、ある程度の品もある。
 生意気だ、と思った。汚らわしいあばずれの腹から生まれたくせに。

「きみ、新入生だよね……これ良かったら」

 わたしは醜い嫉妬を笑顔の下に隠して、荷物の中から余ったビラを取り出した。

「旅行研究同好会っていうの。興味があったら部室に来てね」
「旅行研究……ですか?」
「珍しいでしょ? 部員も多くはないけど、楽しいよ。見学もやってるから」

 彼は渡されたビラを興味深そうに眺めた後、「はい」と折り目正しい返事して自分の教室へと駆けていった。
 
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