自分勝手なさよなら

誕生日の憂鬱。

あっという間にその日はやってきた。

寛子が計画してくれた飲み会。
だというのに、その日は金曜日で退職するオペレーターがいたため、その作業で少し残業になってしまった。

「ごめん寛子、先いってて貰っていい?新橋着いたら連絡するから。」内線をいれる。
「えー主役なのに!まぁ予約もあるし…。わかった。
わかりづらいお店だから駅着いたられ連絡して。」
寛子は少し不満そうに言った後、「丁度いいか」と続けた。

退職するオペレーターさんのロッカーの鍵や入館証の返却を待つ。
コールセンターでは、花束を渡したり、写真を撮ったりしている。
もう五年も経つ私は、こんな光景を何回見たことだろうか。
新しい人が入り、そして辞めていく。
異動もそうだ。コールセンターは沖縄と静岡にもある。支社も全国にある。物流センターも地方にある。
異動とか、退社とか。
自分には到底関係のない話に思えた。

退職するオペレーターは、阪井さんという二十代の女性だった。
「すいません。遅くなりまして。営業部の皆様にも総務の皆様にも本当にお世話になりました。」
阪井さんはかいがいしく頭を下げた。

特段、接点は無かったのだが笑顔で答える。
「いえいえ、お疲れさまでした。ではこちらの管理簿に返却のサインをお願いしますね。」
阪井さんが私をちらっと見る。

「あんまり話したことなかったんですけど、私、村松さんが憧れだったんですよ。」
阪井さんはサインをしながらさりげなくそう言った。
「え?え?なんで?意外すぎるんだけど。」
思わず敬語を忘れてしまう。

「そういうところです。なんかいつも笑顔だし、素で接してくれるところとか、皆に可愛がられつつ頼られてるところとか。」阪井さんが微笑む。
我慢しようとしても、顔が綻んでしまうのを感じた。
素直に嬉しいと思った。

「ありがとう…なんか阪井さんみたいな若くて可愛い子にそんなこと言われるなんて嬉しいな。
これからどうするの?」
「転職するつもりです。私、犬が大好きでドッグトレーナーになりたいんです。」
目をきらきらさせた彼女が答える。

「そう、がんばってね。いつか犬を飼ったら阪井さんにお願いしなくちゃ。」
目標に向かっている人はいつもキラキラしてる。
私もかつて、調理師を目指していた頃はそうだったのだろうか。


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