自分勝手なさよなら
気がつけば残業は一時間を過ぎていた。
ヤバイ!バタバタと靴をはきかえ、メイクを直す時間もなく私は電車に乗り込んだ。
新橋まではすぐだ。

寛子にメールを入れる。
『今乗ったからすぐ着く!遅くなって本当にごめん』
『着いたら烏森改札で』
時計の針は既に20時を指そうとしていた。
33歳もあと数時間かぁ…
本当にあっという間だったなぁ。

急ぎ足に烏森改札を出ても、寛子の姿はなかった。
「村松さん!」
名前を呼ばれて振り向くと、そこには例のごとく、子犬のような目をした内田くんがいた。
偶然の出来事に心臓が止まりそうになった。

「え?…あ、内田くんも飲み会か何か?」
内田くんがきょとんとした視線を向ける。
「何いってるんですか。今日は村松さんのお誕生会ですよ!迎えに来ました。」
「え?内田くんが?」
そういえば寛子から男子のメンツは聞いていなかった。
「自分がいること知らなかったんですか?…なんかすいません。」
「違うの、私今日のメンバー聞いてなくって。内田くんがいるなんて、むしろ嬉しいよ!」
素で答えると、内田くんは目をそらして少しはにかんだ。

寛子ってば。
何て嬉しいサプライズをしてくれるんだか。
嬉しさを隠しきれない反面、教えてくれたらこんなカジュアルなパンツじゃなくワンピースでも着てきたのに…あぁ、メイクも治してないし、急いだから汗だってかいてる。

「村松さん、いくつになるんですか?」
お店まで歩きすがら、無邪気に内田くんが聞いてくる。
答えたくない…。けど逃げられない。
「34…」
「じゃあ、8つ上か。全然見えないですね。」
8つ…小学校でも被らない年齢差。
7つ上の秀雄とも、年齢差があると思っていたのにそれ以上だ。
しかも私が上。
「見えるでしょ。8つ上なんて、もうオバサンって思ってるでしょ。」
また、卑屈に走ってしまう。
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