素顔で最高の恋をしよう
『誰にでもすると思ってた?』

 彼が口にしたあの言葉はどういう意味なのか、 社長に愛の言葉を囁いた数分後になぜ私にあんなことをしたのか、頭の中でずっと引っかかっている。

 キスなんてどうってことはない、あれは事故みたいなものだ、などと割り切れるほど、私は経験豊富ではない。
 私にとっては大切な人とかわす行為だから。

 だけど架くんの瞳からは切なさを感じて、彼も私と同じで、キスは簡単なものではないと主張しているような気がした。

 ……はぁ、もうこれ以上考えるのはやめよう。
 社長と恋仲である人と、私がこれ以上なにかあるわけがない。

 あれはやっぱり事故だ。そう納得するよりほかにない。


 仕事が終わって外に出ると、日が落ちている時刻なのに暑くてたまらない。
 今まで屋内にいたために、そのギャップからか一気に額から汗が噴き出しそうだ。

 今日はまだ比較的早い時間だから、たまにはどこかにふらっと寄ってから帰ってもいいな。
 そう考えながら歩いていると、街中で見覚えのある姿を発見した。

< 115 / 273 >

この作品をシェア

pagetop