あなたの狂おしいほどの深い愛情で、もう一度恋ができました
 この日、私は一時間ほど残業をして会社をあとにした。
 いつものようにエレベーターを降りてビルを出ると、夕方に雨が降ったせいか、湿気が多くて蒸し暑い。
 日が落ちても気温は下がらずに熱帯夜だ。この暑さはいつまで続くのだろう。嫌になってくる。

「あの~、ちょっとすみません」

 駅にたどり着いたところで、見知らぬ男性に声をかけられた。

「これって、どうやってチャージしたらいいんですか?」

 男性が恥ずかしそうに私に見せたのは、鉄道のICカードだった。

「あ、あぁ……チャージ。そこの券売機のところでできますよ?」

 変な人だったらどうしようかと、気構えた私がバカみたいだ。肩の力を抜いて、笑顔で対応する。

「そうなんですね。ありがとうございます。俺、愛媛の山合いの田舎から出てきて、最近こっちに住み始めたばかりなんで、こういうのが全然わかんなくて」

“愛媛”というキーワードに、思わず反応してしまいそうになった。
 愛媛は父の出身地で、祖母がまだ現役でみかん農園をやっているから、私も何年かに一度は訪れる地なのだ。

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