横顔の君




「見て、素敵なブラウス…!
でも、やっぱりお値段もそれなりね。」

そう言って、母さんは小さな溜息を吐いた。



今日こそはと決意を固くしてたのに、暇だから、一緒に駅前のショッピングセンターに行こうと母さんに誘われた。
このところ、一緒に出掛けることもなかったし、断るのもなんだからと、私は母さんの誘いに乗った。
せっかくの決意がまた揺らぎそうになる…
でも、そのことでどこかほっとした気持ちがあったのも事実だ。



「紗代…あんた、靴がほしいとか言ってなかった?」

「え?あぁ…まぁね、今履いてるのが、ほら…ちょっとくたびれてきちゃったから…
でも、今は通勤も自転車だし、おしゃれな靴はいらないから…」

「じゃあ、今度また隣町にでも買いに行こうか。」

「そうだね。結局、私達の買物は隣町ばっかだね。」

私達は、顔を見合わせて笑った。


電車で一駅行った町はこことは全然違う。
まるで、時間の流れがこの町とは違うような印象を受ける。
いかにも、下町といった風情の町だ。
おしゃれというには程遠い町だけど、その代わり、食品や衣料品はここよりもずっと安い。
だから、普段着等はここで買った方がお得なのよって、初めて連れて行ってもらった時に教えてくれた。



「ねぇ、母さん…パンケーキ食べない?」

「私も食べてみたいとは思ってたんだけど、いつもすごい行列じゃない。」

「……そうよね。」

昨日、見たあの酷く長い行列を私は思い出していた。



「じゃあ、出来るだけ人の少ない所で、お茶しようか。」



馬鹿みたい…
お茶する店を選ぶ基準が「出来るだけ人の少ない所」だなんて…

でも、このあたりは…特に日曜日は、そのくらい人が多いんだから仕方がない。



なんとか待たずに座れる店を探し出し、そこで母さんと差し向かいでコーヒーを飲んだ。
他愛ない話も、おしゃれな店だとどこか気分が違う。



「じゃあ、そろそろ帰る?」

「あ…母さん…私、本屋さんに寄って行きたいから…」

「そう、じゃ、先に帰っとくわね。」



そう、私は今日、古本屋さんに行くって決めたんだ。
ちょっと遅くはなったけど、今日こそは…!
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