横顔の君
私は先程の公園に戻った。
小さなベンチに腰掛け、公園の様子をぼんやりと眺めた。
高い木々の向こう側に、さっきのマンションが見えている。



(そっか…)



さっき感じた違和感の正体に私は気付いた。
そう…今、ここにいるのは、私と、離れたもうひとつのベンチに座って缶コーヒーを飲む初老の男性…そして、砂場で遊ぶ小さな男の子とその傍らに立っている母親らしき者だけ。
私が小さかった頃、ここにはいつも子供達がひしめきあっていて、ブランコの取り合いで喧嘩になったり、まだ立ち上っていない子供の所に滑り台から滑って来た子が追突したり…
追いかけっこをする子、かくれんぼをする子…
あの頃は、子供達の無邪気で明るい声に溢れてた。



なのに、今はこんなにも静かだ。
葉擦れの音さえ、聞こえてくるのだから。



そんなことにもまた時の流れというものを感じた。



考えてみれば、私がこの町を離れてからもう十年余り経っているのだ。
変わらない方がどうかしてる。
だけど、駅のこっち側はまだ面影を残してくれてるけど、反対側にはもうそんなものは欠片程も残っていない。
すでに別の町としか思えない。
私が働き始めた頃から、駅前の再開発が始まって、初めて実家に帰って来た時には面食らったものだった。
おしゃれな雑貨やさん、小洒落たカフェ、センスの良い美容院…
巨大なショッピングセンターには素敵なお店がひしめき合ってる。
最近では、遠くの町からもそういうお店を目当てに訪ねて来る人々も増えた。
どこにでもありそうな小さな町が、いつの間にか、住んでることを羨ましがられる町に変わっていた。
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