横顔の君
新たな恋
もうそれは間違いようのない事実だった。



私はあの人のことが好き。
知れば知る程、好きになってる。



何年振りの恋だろう…
前の彼氏と別れた後は、少し人間不信みたいな感じにもなってて、もう誰のことも好きにならないだろうと思ってた。
だけど、今、私はあの人のことをこんなにも好きになってる。



(私にもまだ恋が出来たんだ…)



相変わらず、私は本を買いに古本屋さんに通ってて…
部屋の片隅には、本棚に入りきらない本が積まれるようになっていた。
そして、あの人の読んでる本を真似して買っては、たまに偶然を装ってその話をしたり…
それはとても楽しい時間ではあるのだけれど、残念なことに私の恋にはまだ何の進展もない。
進展どころか、あの人が本当に独身かどうかもわからないし、名前だって知らない。
電話帳には、鏡花堂書店と書いてあるだけで、苗字すらわからない。
看板も出てないから、書店の名前にも探すまでは気付いていなかったのだけど…



今のままでいるのが良いのかもしれない。
下手に探ったり、欲を出して、今のこんな楽しい時間をぶち壊しにしてしまうことだってあるかもしれないんだから…
だったら、端から変な望みなんて持たないで、今の小さな幸せを守っている方が……



そうは思うものの、やっぱりそれでは満足出来ない私がいた。
あの人のことをもっと知りたい。
本以外の話もしてみたい。



でも…そんなことすら、今の私にはハードルが高い。
あの人は私に対してそれほどいやな印象は持ってないと思うけど、だからといって、特別好感を持ってるとは思えない。
何度か、他のお客さんとしゃべってる様子を目にしたけれど、それは私に対する態度とさほど変わってるとは思えなかった。
あの人はお客さんが喋ればそれなりにしゃべるし、相手が笑えば笑う。
ただ、本を選ぶだけの人には、自ら話し掛けるようなこともない。
つまり、特に愛想が悪いというわけではなく、また、その逆でもなく、つかみどころがないというのが正直な印象だ。
だから、私がどんな風に思われているのかを知ることは難しい。
本の話をしてる時は楽しそうには見えるのだけど、それは私の思い込みかもしれないし…

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