横顔の君
今度の本はいまひとつよくわからなかった。
あの人と、同じ世界を共有出来なかったことは少し寂しかったけど、小説とは違うものだから仕方ない。
そんなことよりも、私には少々難しいと思えるその本を、すらすら読んでるのはやっぱり格好良いと思った。



「進んでますね。」

「はい、読めば読む程、面白いですね。」

私は相変わらず、長編ファンタジーを十冊ずつ買っている。



「それにしても、あなたは読まれるのがとても早いですね。」

「え?そうですか?」

「ええ、本当に早いと思いますよ。
僕はね、一冊を数日かけて読んでるんですよ。」

「え?どうしてですか?」

それはとても意外なことに思えたから、反射的にそんな質問を返していた。
だって、毎日あんなに真剣に本を読む人だもの。
本を読み慣れてるはずだし、読もうと思えばもっと早く読めるはずだもの。



「だって、いっぺんに読んだらもったいないじゃないですか。
作者はきっと頭をひねり、言葉を選んで、ああでもないこうでもないって時間をかけて書いてると思うんです。
そんな想いも一緒に汲み取りたいから、僕は時間をかけて読みたいんです。」

まさに、目から鱗が落ちたような感覚を感じた。
あぁ、この人は本当に本を愛してるんだなぁって、心底思えて、あの人への想いはさらに熱いものへと変わった。
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